懐かしの縞を小粋な蝶ネクタイに

・遡ること・・・

 昔々若かりし頃、「古布があるから見に行く」と友人からの誘いが入り、古くからご商売を営んでいたお宅に伺った思い出があります。それはそれは立派なお屋敷でしたが、それよりも古裂を鑑賞できる事が嬉しいやら有難いやらそれは興味津々でした。お話を伺うと、古裂は奉公人の方などが使用していた洗張り済の絹布ということでした。洗い張りとは、今でいう所のクリーニングです。かつて、着用していた着物を洗濯するため、いったん縫製を解いて平面の布地にし洗浄します。さらに、細長い木板に解いた布地を部位ごとに貼り、糊付けをし張りのある生地に整形します。洗い張りした生地は、あらためて着物などに仕立て替えられます。拝見させていただいた古裂は、ほとんどが縦縞模様の絹布でしたが、なかには数回洗い張りされた裂もあり、その都度繕いなど良い意味で使いこなされた絹布の滑らかさや補修の始末などがとても丁寧でした。直に触れ実感できた素晴らしい経験でした。名もなき古人から学んだ補修の極意に感謝です。また、有難いことに唐桟の端裂をいただきました。唐桟(とうざん)とは、細手の綿糸を用いた平織の綿織物で細かな縦縞模様が特徴です。唐桟という名前は、インド東海岸の縞木綿輸出港、セント・トーマスからきているようで、舶来物の唐渡りという意味で「唐桟留」「唐桟」と呼ばれ珍重されていたそうです。

・年代ありきの仕上がり

 頂いた唐桟は、渋い色目で小粋な蝶ネクタイに再生です。古布といえども、表裏の色焼けはほとんどなく、ライトを当てましたが損傷個所もありません。状態は良好ですが、一度水を通して洗浄し生地の脆弱を確認しました。見事に問題なく製作できます。今回は補修裂は入れず生地の風合いのみで仕上げます。首回りは、裏を藍色に表側を蘇芳色としました。衿の中に入ってしまう箇所ですが、粋なお洒落はみえないところにもこだわりました。さて、本体と結び目の芯ですが、毛とレーヨンの毛芯を使用します。月日とともに滑らかな風合いを纏った唐桟には柔らかな芯を選択しました。結び目の裏を縫い付けて渋い蝶ネクタイが完成です。名もなき古人は、まさかの変身にびっくりするでしょうか。

・おわりに

 昭和60(1985)年12月1日、井上 浩著 たなか屋出版部で発行された書籍があります。当時、川越唐桟の歴史が学びたく川越で行われた公演に伺わせていただきました。240部限定の書籍には実物の川越唐桟が貼付してあり何と貴重な裂をと痛く感動しました。いかがでしょうか、ぶらり川越へ。またのご依頼をお待ちしております。