粋な半纏から作るカジュアルコーデ
・半纏とは
神輿行幸など祭りや祝賀行事に着用する羽織物のほか、作業着として庭師や畳屋さんなど職人さんが着用す衣装を法被もしくは半纏と言います。現代においても、儀礼用から商売等の仕事用として幅広く日本の文化や生業を象徴する衣装として引き継がれてきました。そもそも、名称の相違には諸説ありますが、お武家さんが背面に紋を入れて衿を折り返し着用していた「羽織」から法被になった説やお公家さんが束帯の内側に着用していた「半臂」から法被になった由来があると言われています。一方、半纏は庶民が袖の長さを半分ほど短くし、普段着に着用していた「半丁」から由来すると言われています。なかでも、半纏にはお店の屋号を染めた「印半纏」や神輿の担ぎ手たちが誂える「神輿半纏」があります。どちらも背面の上部には「大紋」という大きな背紋が入りますが、大体印半纏では店のロゴマークとなる「屋号紋」「が使用され、下部の腰柄には「角文字」で店名が白抜きされています。なかでも丸輪に文字の組み合わせには、正しい商いの中で店の繁栄を願う思いが込められいます。一方、神輿半纏には基本的にお宮(神社)の紋をつけることが多いのですが、縁起担ぎとなる文様など色味も豊富に使用されています。さらに魔除けとして必ず背中心に縫い目を入れて仕立てるといった神事から衣装作りまで一本筋を通す粋なこだわりが込められています。

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・状態・解体・洗浄・整形
はじめに、状態を確認し特に視覚・臭覚・触覚は注意深く観察します。今回の半纏は、仕事の際着用されていた印半纏のようで衿文字には屋号と店名が白抜きされていました。経年による焼け・退色・擦れ等が多く点在していましたが生地(木綿)の状態は良好です。ちなみに、仕事用として製作された紺地や黒地の印半纏には、化学染料(硫化染料)が使用されていることがあります。藍染と同様に酸化して発色する染料ですが、堅牢度が緩く色落ちが強いといったデメリットがあります。見極めとして、手に付着するほど色落ちが激しい場合は化学染料もしくは助剤が使用されていると思われます。そこで、今回の印半纏の場合は化学建ての特有の臭いもないことから、本建ての藍で製作された半纏地と考えられます。再生に使用可能と判断し、解体から始め衿・袖・身頃に分解します。穴や破れなどの損傷個所には糸標を布端に入れ、洗浄は中性洗剤で手洗いとし水洗後木綿布に包みネットに入れて脱水です。各部位ことの歪みを整形し下準備は完了しました。それでは、バケットハット製作まで今しばらくお待ちいただきます。

・裁断・縫製
帽子(ハット)を作る半纏部位として片袖と衿を使用します。まずは天井(トップクラウン)・腰(サイドクラウン)・つば(プリム)の縫い代込みの型紙を製作し、使用するデザインや色目などの配置を考えながら標を入れ裁断していきます。表側の腰布には、衿の裏面で藍が退色していない箇所を使用し、つばには山の文字(衿文字の屋号紋)が左右の脇側に来るように6枚接ぎとしました。また、表側と裏側を同布で仕上げるので各部位の用布は2倍取りにし縫製は全て手縫いで仕上げていきます。はじめに、表側のつばを接ぎ合せ背中心(センターバック)は縫製せずそのままとし、ひきつづき腰布をつばに縫い付けます。同様、裏側には接着心を貼付し縫製します。次に、表裏のつば端(プリムヘッジ)を縫い合わせ表側のみ天井布を縫い付けます。さらに、表布から裏布までの背中心を続けて縫い合わせ楕円形のバケットが出来上がります。つばの接ぎや背中心の急所となる箇所には隠し綴じをいれて表裏を固定してから裏側が表側になるよう引っくり返し、裏側の天井布を縫い付けます。最後に空気口(帽子内の通気口)の菊穴(ボタンホール)を入れて完成です。








・おわりに
半纏1枚でジェンダーレスバケットハットのほか、身頃でミモレ丈のスカートを片袖でポインテッドとバタフライの蝶ネクタイを製作しました。経年とともに退色した藍とオリジナルに近い藍のコントラストが自然のまま気取りのない素朴な感じで仕上がりました。ちなみに藍は虫を寄せ付けない効果があり、夏の夜の花火大会などにいかがかと・・・またのご依頼をお待ちしております。
