自分だけの1点品として再生
・お気に入りだからこそ
長年、何かといえば締めていた愛用のネクタイには、ご自身のいろいろな場面の懐かし思い出が多く詰まっているのではないでしょうか。今回、時とともに少々お疲れ気味になったネクタイを再生したいという依頼を受けました。素材は、絹の綾地にペイズリーが描かれた後染加工の生地です。高級感がありハイセンスなデザインで色合いの渋さと繊細なペイズリー模様に一目で惚れたのでは、なかなかのシャレオツ素晴らしい!

ところで、ペイズリー模様の起源ですが諸説あります。なかでも、紀元前新バビロニア王国でナツメヤシをモチーフにしたペイズリーの原形があったと言われ、さらにオリエントの世界統一に成功したペルシア帝国期には「花鳥文」が誕生します。その後、インド、イスラムに渡り植物の種子・果実など生命の木をモチーフとした文様が加えられ、人間の心理に共感するデザインとして使われてきました。特にインドのカシミール地方で誕生した伝統柄と言われています。たちまち世界的にも有名になりましたが、スコットランドのグラスゴーにあるペイズリー市では類似する模様をあしらったカシミアショール(模造品)が大量に生産され1840年頃からはペイズリー市のショールが有名になっていきます。このような事から、ショールの模様はペイズリーと名付けられました。因みに日本では勾玉模様とも言われています。

さて、およそ35年前20代の頃に偶然出会った愛用のネクタイは、部分的に擦れが多くあるため、状態調査から仕立替えをアドバイスさせていただきました。そこで、実用品さらにコレクションとして自分だけの1点品となるピアネス・タイ(蝶ネクタイ)に再生致します。なかでもエレガントなポインテッド型をお薦めしました。仕上がりまで今暫くお待ちいただきます。
・解体・清掃
はじめに、大剣の裏側にある小剣通しを外し閂止めを解きます。本来、閂止めは縫目止まりのほつれを防ぐために使用しますが、ここでは芯地、裏地そして本体の裏側を固定する役目もあります。閂幅は10mmほどです。引き続き閂止めから始まる縫製糸の玉結びを切断し、くけ糸を外していきます。かなりおおらかな縫目となりますが、ネクタイを製作するうえでは通常の範囲です。縫製を全て解くと、意外と中側には糸くずや塵、埃が溜まっていました。使い古しの柔らかい絵筆や歯ブラシの馬毛もしくは豚毛で地目に沿って軽く埃を除去します。生地を整形しトレース版に載せると目視では確認できなかった損傷個所や擦れが表出します。さて、どこを使うか裁断前のキーポイントです。

・裁断、縫製
整形済のネクタイ布から、本体布・結び布・首回り布の3パーツに裁断します。今回は結び布には補修裂を首回り布に固定裂を付けます。さらに本体に使用されていた芯は使わず、張りのある芯に入れ替えます。縫製は全て手縫いとし、通常のネクタイ縫製とは異なり1,2mmほどの細かい縫い目幅で仕上げていきます。首回り布には表側から「くけ縫い」の技法を用いて仕上げていきます。



・完成
各々のパーツが出来上がった後、本体部分の左側表面がポインテッドになるよう畳みます。中央にくぼみを入れ、端を裏側に丸く入り込むよう形を整えます。左右が均等になるよう結ぶ布を縫付け首回りには真鍮にビニールコーティングした金具を使用しました。自分だけの1点品ピアネス・タイの完成です。いかがでしょうか。またのご依頼をお待ちいたします。
