物を大切にする文化だからこそ
・丸帯の歴史
丸帯は、幅70cm丈4mほどの織地を二つ折りにして仕立てた帯を総称します。かつて、江戸時代中期頃、鬢がふっくらと透けて見える横に張り出した髪型が誕生しました。特に浮世絵師の鈴木春信が好んで描いた美人画の髪形は「春信風島田結」と言われ、大きな髪結いの形が流行しました。それにともない、江戸時代前期とは小袖(着物)の形態に変化があらわれ、細い帯から幅広の帯へとファッションアイテムにも新作が広まり丸帯が誕生したようです。そのようなアンティークの丸帯を引き解くと、中側の芯地に厚い木綿地が使用されるていることもあり、さらにずっしりとした帯になっています。いまでは花柳界等の衣裳として、たとえば舞妓さんのだらり帯など、人(着付け師)に締めていただく帯として見かけることが多いようです。現在では、一般的に一人で締めることが出来る袋帯などが支流となっています。
・物を大切にする日本文化の技術から
締めることが難しい丸帯を有意義に活用したいと思い、大幅を利用したコートの仕立て替えを試みました。その際、襟ぐりで裁ち落とした残り裂があり身近なアイテムと思い、分量からスマホケースと考えました。さらに、肩紐として使用できる長さの帯締めを使用します。ちょいと渋いポシェット型で制作することに致します。今しばらくお待ちいただきます。

まずは、裂地を制作寸法に縫い代+遊び分を加算し、制作する形態になるよう裂地を組み合わせて裁断します。はじめに、白い綿布の上に裂地を並べ霧吹きでしっとりするぐらい水分を加えます。つづけて濡れた裂地の上にさらに白の木綿布を載せて端が曲がっていないかを確認しながらサンドします。さらに上から重しをのせて整地させます。半日ほど寝かせた後、優しく丁寧に開けると裂地がぴったりと長方形の必要寸法になりました。ところで、表具師の優れた美的感覚は、掛け軸などに使用される裂地の組み合わせにあり日本文化の極みが集約され、古布などの裂地は大切に保管されています。今回、表具の技法とはいきませんが糊不要の裏打ち専用紙を使用し三枚の裂地を接ぎ合せていきます。接ぎ合せに狂いが出ないように一裂づつ湿り気を与えつつ、当て布をして熱を加え接着面に張り付けていきます。三枚の裂地を隙間なく張り合わせた後、布地を裏打ち紙に安定させるため再度綿布に挟み重しをおいて整地します。さらに、今回は接ぎ合せ部分に金糸を縫い付けていきます。これは、物を大事にする日本文化の金継技法を参考に接ぎ合せ箇所を装飾します。金継とは、器などの欠けた部分やひび箇所を漆で接着し金や金属粉で装飾する修復技法です。裂地の場面移動となる継ぎ目の装飾として金糸と絹糸の黄色を掛け合わせた杢糸と金糸のみの境界線として加飾します。布地の安定を確認した後、継ぎ目に糸を渡していきます。






・仕立て
表地は縫い代分を折り返し、裏地にはカードが入る程度のポケットをつけて同じく縫い代分を折ります。裏側にはショルダー紐を掛ける三角環をつけてから表裏を外表に合わせ縫い付けていきます。脇となる端かがりには千鳥がけで仕上げます。糸は、絹糸12菅の釜糸を6本・6本で撚り合わせました。



・おわりに
ショルダー紐は、細めの帯締めを使用し三角環に房を通し結びます。ほどけにくく解きやすい結び目で、染屋さんで張り手を結ぶときに使用される「もやい結び」で仕上げます。ちょいと渋いスマホケースとなりましたがいかがでしょうか。またのご依頼をお待ちしております。


