着けた者だけが味わえる最上のひととき
・出会い
時空を重ねた着物に魅了され、さらに江戸・桃山とその時代の絹布のしなやかさに驚嘆した時機、「いにしへの絹布」を求めて長野に行ったのは凡そ10年前でした。幼少の頃の記憶に残る臭いの先には小ぶりの美しい白繭が出迎えてくれました。
そもそも、長年絹布に携わる生業とはいえ大部分は20世紀の昭和物であり古物商で出会える江戸物はごくわずか、それでも大半は後期に流行った縮緬類がほとんどです。当時、数々の絹布をご紹介いただき織組織等が違えども軽量ながら細い絹糸にはしっかりした弾力があり、絹布の滑らかさとその光沢の見事さに驚いてしまいました。中でも極め付きは真綿でした。真綿とは、蚕の繭を引き伸ばして綿にしたもので、糸にするには難しい繭を熱水で処理し平板状にした物を指します。その感触は、生まれたての猫や犬、ヒヨコのうぶ毛と比較していいか戸惑うほどの滑らかさで、今まで使用していた真綿とは別格の肌ざわりでした。今でもあの時の感動は人生の宝です。
今回、この究極の絹布で蝶ネクタイを制作させていただきました。加飾用の刺繍糸にもそれなりのこだわりを入れて仕上げていきます。出来上がりまで今しばらくお待ちいただきます。
・絹布から最上のアイテムに
希少な絹布から製作するピアネスタイは、着けたものだけが味わえる最上のお洒落です。なかでも、鮮やかな黄金色のバタフライ型は草木のフクギ(福木)で先染めした糸を繻子織で仕上げた絹布です。一点品としてオリエンタル風のデザインを刺繍で加飾しました。使用した加飾糸は、本来唐織の装束に使用される絹糸として製作された物であり、さらに唐織の復元用の糸としても使用される材料です。糸染には草木の材料が使用されています。また、加飾したデザインの下には極薄の和紙をいれ模様に厚みを加えタイに奥行きを表現しています。次に白地三枚綾のバタフライ型には、クラッシック音楽ファンへの一品として、ベートーヴェン『月光ソナタ』の始まりの楽句を入れてみました。胸元で聞くピアノソナタです。さらに、インド茜で先染した平織のポインテッド型は、渋いピンクが絹布の光沢と交差し「いにしえの絹布」そのものが持つ品格が表出した作品になりました。最後に、白糸とクルミで先染めした平織のポインテッド型は、透き通るように薄い織物ですが極細のペンシルストライブが重厚さを加味しています。仕事でもカジュアルにも使用できるアイテムとして楽しんでいただきたい1品です。
-1-300x225.jpg)


-2-300x225.jpg)
-300x225.jpg)
・おわりに
「いにしえの絹布」の素晴らしさのほか、アシストする芯地には「馬のす」入りを使用いたしました。着けた者だけが味わえる最上のアイテムとして贅を尽くします。あなたの良きパートナーにいかがでしょうか。またのご依頼をお待ちしております。
