裁ち落とし裂をモダンに有効利用

・ふくさの漢字と種類

 ふくさには、「帛紗」「袱紗」「服沙」などの漢字が用途に合わせて用いられています。特に、茶の湯の点前などに使われる布には「帛紗」の文字が使用され、こぶくさには古(いにしえ)が充てられ「古帛紗」として使用されます。一方、器物やご進物などに使われる布には「袱紗」の文字が充てられ、特に結納などの祝儀品には家紋の入りの布や豪華な染や刺繍がデザインされた布が掛けられ「掛袱紗」として使用されます。さらに、祝儀・不祝儀など金子の紙包みなど懐中物を包む布には「服紗」の漢字が使われます。その他、「覆紗」を用いた漢字がありますが、柔らかい若しくは簡略な布などを指しているようです。今回、趣味物の拝見やコレクションの敷物などに用いる布として「小袱紗」を使用致します。

・裂の選定

 以前、化学肥料・農薬・除草剤を使用せずに栽培された桑で飼育されたお蚕さんをご紹介しました。今回、その繭を使用して製織した反物からの裂を使用します。実は、蝶ネクタイ等を仕立てる際布地をバイヤスでカットするため多角形の裂がに残ります。そこで、出来上がりサイズの型紙に裁ち落とした裂を置き、”あれよこれよ”と並び変えモダンな小袱紗を制作いたします。出来上がりまで今しばらくお待ちいただきます。

・裂の縫い合わせ・糸継ぎ・刺繍

 使用する織組織は、白平織・インド茜先染め平織・白縞入り三枚綾織の3種類です。前もって裂には経糸方向に糸標を付けておきます。その標を目安に裂の方向を同一に保ちデザインを決めていきます。配置が決まり次第、細かい裂から縫い合わせ縫い代は開き付けとし小袱紗には7mmの縫い代を加えます。糸継ぎに使用する生糸ですが、ミョウバンと鉄媒染で染め組紐になるために製作された釜糸をS縒りに仕上げます。留め糸も同釜糸をさらに分解し極細糸にします。刺繍用の糸は、外国産の紅花で染めた釜糸のままで加飾いたします。準備が整い次第、木枠に生絹(すずし)を張り一枚布にした裂を留め付けます。中心側から縫い目に沿って撚糸をのせて極細糸で留めていきます。糸継とは、金継ぎの技法に似た方法で接ぎ合せた裂と裂の間に縒糸を引いて仕上げます。糸継ぎ完了後、白裂に芥子縫い技法で模様を付けます。

・仕上げ

 糸継ぎの縒糸が抜けないように端を留め、さらに留め残しが無いかを裏側から確認した後、ふのり(天然接着剤)を裏側の留め糸および刺繍糸にコーティングします。最後に湯のしをいれて自然乾燥です。木枠から外し本体を裁断します。本体の裏側は生絹が付いたままの状態となるのでしっかりと固定されます。裏布には表裂に使用した白平織を使い表裏の間に角真綿をいれ生絹の張と真綿の弾力をくわえた仕上がりと致しました。

・おわりに

 同様に、インド茜先染平織と白縞入り三枚綾織の2種類を使用して蝶ネクタイを制作いたしました。古(いにしえ)の名物裂で鑑賞する道具物との出会いはいかがでしょうか。それではまたのご依頼をお待ちしております。